Netflixでドラマ化されたマーベルコミックの「デアデビル」は、幼い時に視力を失った盲目の弁護士が主人公。
視力と引き換えに得た異常に発達した聴覚を武器に、夜は覆面ヒーローのデアデビルとなって犯罪者たちと熾烈な戦いを繰り広げる。
そんなデアデビルを彷彿とさせる、盲目のゲーマーがeスポーツの世界で注目を集めている。
盲目のeスポーツ選手
オランダ人のスヴェン・ヴァン・デ・ウェッジは、6歳の時に癌が原因で視力を失った。
この時、スヴェンが最も恐れたのは「大好きなテレビゲームで遊べなくなる」こと。
音ゲーやリズムゲーなどは、練習すれば画面が見えなくても、聴覚を頼りに遊ぶことが可能かもしれない。
しかし、市販されているゲームの大半は、視覚障害者に配慮して制作されているわけではない。
幼くして視力を失ったゲーム少年には残酷な話だが、スヴェンは盲目になった後もコントローラーを握り続けた。
膨大な時間をゲームの練習に費やし、音だけを頼りに攻略する方法を模索。
その結果、スヴェンは画面を見ずに音だけで相手を倒す格闘ゲーマー「ブラインド・ウォーリアー・スヴェン」となった。
2017年にスペインのマドリードで行われた「ストリートファイターⅤ」の大会に出場すると、最も得意なキャラクターケンを使い、1回戦でプロゲーマーに勝利し、観客を大いに沸かせた。
「初戦で勝てた時の嬉しさは、よく覚えています。自分でも信じられませんでした」
この時の勝利で「盲目の戦士スヴェン」の名は知れ渡り、eスポーツの世界で注目される存在となった。
なぜスヴェンは、ゲーム画面を見ずにプロ顔負けのプレイが可能なのか?
実は、盲目になったことでスヴェンの脳では大きな変化が起きていたと言われている…
盲目と脳の再編成と格闘ゲーム
最新の脳科学では、視覚と聴覚の情報が脳の同じ部分で処理されていることが明らかになり、視覚からの情報が多いと、聴覚からの情報処理が鈍くなると言われている。
つまり、視覚からのインプットがないスヴェンの脳は、ゲームから聞こえてくる大量の聴覚情報を素早く処理しているため、プロゲーマーに引けを取らないプレイが可能なのだと推測される。
聴覚だけでなく、ハーバード大学医学部コリンナ・M・バウアー教授によれば「幼い頃に視力を失うと、脳の機能は再編成され、記憶、言語処理、運動能力が向上する」そうだ。
今後、スヴェンは自分以外の身体障害を持つゲーマーの手助けとなる活動も計画している。
「これからもゲームトーナメントに参加していきたいです。スポンサーを見つけてプロになって、盲目の人たちがゲームを始める手助けもしたいと考えています」