ダリル・デイビスさんは、アメリカ各地でコンサートを行うプロのミュージシャン。
ただ、音楽以外にもダリルさんが長年情熱を注いでいる活動がある。
それは「白人至上主義」を思想に掲げる人種差別集団KKK(クー・クラックス・クラン)のメンバーと接触し、話し合いを重ね、人種の壁を打ち破り友人となることだ。
KKKと黒人音楽家の交流
1860年代に誕生したと言われる秘密結社KKKは、主に保守思想の強い白人で構成され、黒人、アジア人、ヒスパニックなど、他人種に対して非常に排他的な集団。
過去には罪のない他人種への暴行、殺人、誹謗中傷などの事件を何度も起こしているので、多くの黒人はKKKを忌み嫌っている。
しかし、ダリルさんは30年にも渡って黒人を嫌うKKKのメンバーと直接対話して、お互いの心を通わせてきた。
なぜ、自分たちを目の敵にする人たちに、わざわざ会いに行くのか?暴行を受けたりする危険が無いわけでもない。
ダリルさんの目的は「人種差別の背後に何があるのか理解するため」だったそうだ。
黒人少年が受けた初めての差別
最初にダリルさんが人種差別問題に興味を持ったのは、彼が10歳の少年だった頃。
ボーイスカウトのイベントへ参加した時、白人少年のグループが、ダリルさん達黒人のグループへ空き瓶や石を投げ始めた。
生まれて初めて激しい差別行為に巻き込まれ、ダリルさんは両親に理由を尋ねた。
「それは肌の色が違うからだよ」
この時、ダリルさんの頭にハテナマークが浮かんだ。
「一度も喋ったことのない、目を合わせたこともない、自分のことなんて何も知らない人が、肌の色が違うだけで攻撃してくるんです。私は理解できませんでした。どうして、そこまで他人を憎むことが出来るのか?」
この事がきっかけとなり、ダリルさんは人種差別に関する様々な本を読み始めたが、本を読むだけでは原因や解決法への明確な答えは出なかった。
そこで、大人になったダリルさんは、直接KKKのメンバーを尋ねて話してみることにした。
KKKと黒人の友情
30年かけて、ダリルさんは200名ものKKKメンバーと対面し、自分の演奏を聞いてもらい、お互いの考えを話し合った。
メリーランド州でKKKの支部長を努めていたロジャー・ケリーも、ダリルさんが面会した一人。
会話を重ねる内に2人は心を通わせ、友人となり、ロジャーはKKKを脱会。
KKKの活動で着ていた白いローブは、ダリルさんが処分を依頼された。
しかし、ダリルさんは差別の象徴でもあるKKKのローブは処分せず「人種差別は改めさせることが出来る」事の証として、今でも保管している。
そんなダリルさんは、これまでの自分の活動を書籍で出版し、その勇気ある行動を多くの人が知ることになった。
偏見や憎悪を乗り越え、思いやりを持って差別主義者の悪意を取り除いたダリルさんに、多くの称賛の声が集まっている。