節々が痛くなるほど恐ろしい「海外で話題になった怖い話シリーズ」。
今回は、保育士が覗いてしまった子供の心の中の怖い話…
怖い話 其ノ四十七「心の中の世界」
小さい頃から、人の心の中を覗き見る事が出来ました。
映画やアニメでありがちな、心の声が音声で聞こえるのではありません。
私は相手の心の中に入り込んで、心象風景をビジュアル的に見たり、匂いや手触りまで感じることが出来るんです。
他人の心を覗くのはとてもスリリングな体験ですが、これまでの経験に基づくと、大人の心を覗いたって面白くありません。
仕事や家庭や税金の支払いで疲れた、灰色の世界に入り込んでも、うんざりした気持ちになるだけ。
でも、子供の心の中に広がる世界は、とても素晴らしいのです。
夢と希望に溢れた世界は、ディズニー映画よりも私を楽しませてくれます。
だから私は保育士になりました。
色とりどりのロケットに乗り込んで、銀河の果てまで飛んでいったり、キャラメルの流れる滝やゼリーのトランポリンで遊んだり、子供の想像力と純粋さには驚かされます。
ある日、子供たちがクレヨンでお絵描きしていた時のことです。
机に座っていた私の服の裾が引っ張られたので、見るとそこには、こちらを見上げるサラがいました。
つい先日から、うちの幼稚園に通いだしたばかりの4歳の幼女サラは、大きな目でニコニコ笑う、とても可愛らしい女の子でした。
「先生のために、これを描いたの」
サラが手渡してくれた画用紙には、カラフルな花の絵が描かれていました。
「サラちゃん、先生とっても嬉しいわ」
小さなサラをハグすると、彼女は嬉しそうに笑い私に抱きついてきたのです。
きっと、この子の心の中にも素敵な世界が広がっているに違いない。
そう確信めいたものを感じ、彼女の心の世界を覗いた瞬間…目の前には、私の期待を大きく裏切る、グロテスクな世界が飛び込んできたのです。
血生臭い匂いが鼻を突き、いくつもの鋭く長いトゲが足の甲を突き抜け、ゴルフボールほどの大きさのハエの大群が周囲を飛び回り、私の口や鼻、目の中に突進してきます。
数千人、数万人もの悲痛な叫び声が鼓膜のもっと奥に流れ込み、絶望と恐怖と死で脳みそが決壊寸前…
わずか数秒ほどでしたが、まるで、この世の不幸が私の中へ一気になだれ込んできたような最悪の体験でした。
命からがら、意識は教室へ戻ってきましたが、鼻の奥には血なまぐさい匂いが残り、足の甲はズキズキと痛み、みっともないほど全身が震え、冷や汗が吹き出してきます。
直ぐ側には、キョトンとした顔のサラが、こちらを見上げていました。
「サラちゃん…可愛い絵ありがとう。そろそろオヤツの時間だから、準備しようね」
幼女は相変わらずの笑顔で頷き、スキップをして自分の席に戻っていきました。
子供の心の中が、とても素晴らしい世界であることは間違いありません。
人間の子供なら…
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