うんざりするほど恐ろしい「海外で話題になった怖い話シリーズ」。
今回は、とあるカルト宗教団体に関する怖い話…
怖い話 其ノ四十三「神との接触実験」
1970年代初頭のことだった…
アメリカで、あるキリスト教系カルト団体に所属する科学者、宗教学者達が、教団施設内で秘密裏に実験を行った。
それは「あらゆる感覚を絶たれた人間は、神の存在を感じることが出来る」という仮説に基づき、外科手術によって人間の五感を意図的に遮断して経過を観察するという、常軌を逸した人体実験だった。
教団に所属する狂信的な科学者、宗教学者は「人間の五感は神に近づくことを妨げている」と本気で考えていたからだ。
「私の人生には、もう何も残されていません。ですから、教団のお役に立てるなら、この体を好きに使ってください」
実験のボランティアに信者の老人が名乗りを上げた…
「あなたは自分の声すらも聞こえなくなりますが、声を出すことは出来ます。ですから、頭に浮かんだことや思ったことや感じたことは、全て言葉に出してください。私たちと神が、あなたの直ぐ側でいつも見守っています」
老人は脳外科手術を受けた結果、肉体的には健康だったが、視覚、嗅覚、聴覚、味覚、触覚の全てを失った…
術後の老人は、五感を失ったことに対する恐怖は見せず、起きている時は、これまでの人生を振り返る思い出話を語り続け、教団関係者が交代で観察を行った。
しかし、手術から4日後に老人へ異変が起きた…
「誰かが私の頭の中に喋りかけてくるんです…何を言っているのかは、わかりません…」
老人は神の声を聞いているのか?
それとも頭がおかしくなってしまったのか?
2日後、それまで毅然としていた老人は何かに怯えはじめ、唸り声、叫び声をあげはじめた…
そして、知るはずもない教団関係者の家族や親族、友人の名前を呼び始めた。
実験を見守っていた人たちは、これに怯えた。
なぜなら、老人が挙げた名前の人たちは全て故人だったからだ。
意思の疎通は不可能なので、老人に何が起きているのか聞き出すことは出来ない。
しかし、偶然では説明の出来ない事態に「実験を中断するべき」と「研究続行」で意見が対立した。
故人の名前を呼び、叫び、唸り、気絶したように眠る…
老人の症状は目に見えて悪化していった。
そしてついに…
「もう嫌だ!!地獄なんて行きたくない!!!」
老人を見守っていた関係者達は硬直した…
さらに老人は叫び続ける…
「天国なんて全部ウソだ!!誰も許されることはない!!死んだら全員、地獄へ落ちるんだ!!私の五感を返してくれ!!」
老人は同じことを繰り返し叫び、自分の見ている地獄の様子が、どれだけ悲惨か訴えた。
しかし、ここで実験を中断しては、教団の教え、神や天国の存在を否定することになってしまう。
後に引けない教団関係者達は、老人へ神が救いの手を差し伸べる時は近いと解釈。
徐々に老人は言葉を口にすることが減り、叫ぶこともなく、呪文のような意味不明のつぶやきが増えていった。
そんな状態が2週間ほど続き、研究を続けるか中止するか、答えを出せないでいた頃…
盲目であるはずの老人は、定期検診を行っていた研究者を見つめて、こう言った。
「やっと神と話すことが出来たよ。あいつはもう、人間に興味ないってさ」
かすれた声で呟いき、乾いた笑い声を上げた後に、老人は息を引き取った…