ふと「どれでも1個50セント」と書かれたバケツの中を覗き込むと、中には服を着ていないバービー人形が、いくつも無造作に放り込まれていました。
中の1つを手にとってみましたが、バービーの髪の毛には何か塗り薬のようなネバネバしたものが付いていて、魚が腐ったような悪臭も漂ってきました。
「君は人形が好きなのかい?」
男性は相変わらず笑顔で話しかけてきましたが、私の顔は得体の知れない恐怖で引きつっていたかもしれません。
「何歳なの?」「どこに住んでいるの?」「学校は?」「家族は?」
私は曖昧に笑い「もう時間だから…」と、再び男性の顔を見ること無く、その場を立ち去りました。
母と祖母の顔を見た私は、なぜか涙が出てきそうになるのを堪え、ヒゲの男性については話さず、何事もなかったかのように振る舞いました。
それから1週間後、すでにフリーマーケットの事も忘れかけていた頃、テレビのニュース番組に、あのヒゲの男性が写っていたのを見た時は、思わず声を上げそうになりました。
「容疑者の男は被害者の母と娘が暮らす自宅に押し入ると、二人に暴行を加えた後にクローゼットへ監禁。家電や家財道具を売って金に変えていたと見られます…」
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