背筋が凍るほど恐ろしい「海外で話題になった怖い話シリーズ」。
今回は、緊急通報のオペレーターに関する怖い話…
怖い話 其ノ五十「緊急通報」
「何か緊急の事態でしょうか?」
電話で話すことが得意でない私は、いささか戸惑ってしまいました。
これまでに緊急通報した経験もなかったし、顔も知らない人と喋るのは、とてもストレスを感じます。
ですが、悠長なことは言っていられません…深呼吸をしてから、私の要望を端的に伝えることにしました。
「あの……はじめまして…私はカイリー・ウィルソンと申します。実は、お願いがございます。私の大切なトム・スミスが行方不明なのです」
「わかりました、いつから行方がわから…すいません、もう一度お名前よろしいですか?」
「トム・スミスです」
「いえ違います、もう一度、あなたの名前を教えてください」
この際、私の名前なんてどうでもよくて、問題なのはトムが帰ってこない事なんです。
それなのに、電話の向こうの見知らぬ女性は、何で一度言ったことを聞き返してくるのでしょうか。
「私の名前はカイリー・ウィルソンです。ちゃんと聞いてください、トムが12時間も家に帰ってこないのです。あなたは12時間くらい何の問題もないと思うかも知れませんが、過去にトムがこれほど家を留守にしたことはなかったんです。それに、行き先を告げないでどこかへ行くことなんてなかったから…だから私…」
「聞いてくださいウィルソンさん。今、あなたがいる場所の住所を教えてください」
どうして…
この女は私のことばかり聞いてくるのでしょうか…この電話は、本当に緊急通報へ繋がっているのでしょうか…?
「何で私の住所を教えなければならないのでしょうか?」
「ウィルソンさん、あなたは自分がどこにいるのか、わかっていますか?」
「自宅にいます…」
「ですから、住所を教えてください」
喉の奥のほうが痙攣を始め、右手に持っている電話も、とても重く感じます。この女には事の重大さが全くわかっていません…
「住所なんて知らないわよ!何か問題あるわけ!?ちゃんと聞きなさいよ!さっさとトムを探せって言ってるの!!!」
「ウィルソンさん、お願いですから、今、どこにいるのか教えてください。あなたの両親はとても心配して、捜索願いを出されて…」
その時、窓からこちらに向かって歩いてくるトムの姿が見えたのです。
私はホッと胸をなでおろし電話を切ると、鏡で髪の毛や服が乱れていないか確認して、玄関でトムを出迎えました。
彼は真っ赤な顔をしていましたが、帰ってきてくれればそれでよいのです。
「ここで何してんだ!?どうやって上がってきた!?」
「あなたが帰ってこないから心配してたのよ…きっと、何か良くないことが起きたんだって…それに、トムが地下室の鍵を締め忘れていたのよ。でも、何も問題ないわ」
トムは静かに目をつぶって深くため息を付きました。
「君がどこにいるのか、警察に言わなかったか?」
「言うわけないじゃない。私は、どこにも行かないわ」
トムは優しく笑うと、ギュッと強く抱きしめてくれました。
「それじゃあカイリー、地下室に戻ろうか?」
「わかったわ、いつものように大人しくしているわ」
手をつないで地下室までエスコートしてくれる優しいトムが、私は大好きなのです。