人間は「笑う」ことで、気分が明るくなり、心の健康が保たれる。
しかし、その笑いが1時間も2時間も、ましてや気を失うまで続いてしまったら大問題だ。
嘘のような話だが、実際に過去、ある地域で笑いが止まらなく奇病が蔓延し、深刻な社会問題となったことがある。
狂ったように笑い続ける少女たち
始まりは1962年1月31日だった…
東アフリカに位置するタンザニアのビクトリア湖近くにあるキリスト教系女学校で、一人の女子生徒が突然、声を上げて笑い出したのだ。
しかも、その女子生徒の笑いは一向に止まらない。学校の教師が注意しても、笑いは収まらない。それどころか、同じように笑い出す生徒も増えていったのだ。
思春期の女の子を「箸が転んでもおかしい年頃」と表現することもあるけれど、このタンザニアのケースにおいて、女子生徒たちは面白い何かをきっかけに笑い始めたわけではない。
ただただ何時間も狂ったように笑い続けるのだ。
一体、少女たちの身に何が起きているのか?
謎の奇病「笑い病」のパンデミック
学校に通う少女達が突然笑いが止まらなく奇妙な現象は、1日経っても解決することはなく、日に日に酷くなっていった。
最初は数名だけだった笑いの発作は、徐々に周りの生徒にも伝染。やがて学校全体に笑い病が広がってしまい、その影響を受けなかった教師や生徒の両親たちを唖然とさせた。
症状には個人差があり、笑いを通り越して泣いたり、叫んだり、暴れたり、全身の痛みや呼吸不全を起こしたり、失神する者も相次いだ。
このような症状が数時間で収まる者もいれば、16日間も症状が続くこともあったと言う。
生徒たちが常に笑い続けているため、学校は休校となり、手に負えないと教師の退職も相次いだ。
更に、原因不明の笑い病は、徐々に周辺のエリアにも広がっていき、周辺の村や学校で子供だけでなく大人の中にも、笑いの止まらなくなる人たちが現れた。
数カ月後には、隣国のウガンダにまで笑い病は伝染。1000人以上に影響を及ぼした。
現地には医者や科学者も派遣され原因特定を急いだけれど、解明することは出来ず深刻な社会問題となっていった…
研究者も困惑した笑い病の終焉
タンザニアとウガンダの一部地域で蔓延した笑い病は、発生から1年以上もパンデミックが続いた。
ところが理由はわからないが、発生から18ヶ月後に笑い病患者はピタリと現れなくなり、逆に研究者たちを困惑させた。
今になっても笑い病の原因は詳しく分かっていないが、次のような仮説が唱えられている。
笑い病は集団ヒステリー説
笑い病の発生原因として最も有力だと考えられているのが、周辺地域の人々が抱えていた慢性的なストレスによる集団ヒステリー、または社会性の疾患。
全ては心理的なものが原因だったとする説である。
ある研究者は次のようにコメントしている。
「同じ地域に暮らしている人たちには、何か共通のストレス要因が根底にあるものです。それは、社会的に力を持たない人ほどストレスが強い。笑い病にかかったのが女子生徒に多かったのも、そのためかもしれません」
笑い病の原因はウイルス説
ブラジルのカンピーナス州立大学で行動生物学を研究するシルビア・カルドソ教授は、笑い病の流行が脳炎に似た症状を起こすウイルスによって引き起こされたと考えている。
「心理的な要因の集団ヒステリーが、これほど長期間、広範囲に継続するとは考え辛い。何か道のウイルスが関係していたのではないか?」
しかし、当時行われた患者へのあらゆる検査では、ウイルスや病原菌、毒素などは確認されていない。
今でも、笑い病がパンデミックを引き起こした詳しい原因は、謎のままとなっている。