見えない何かに怯える被害者
生前のブレアは、隣国カナダのブリティッシュコロンビア州で建設会社の監督として働いていた。
会社の関係者は「真面目に働くブレアに仕事上の不満があったようには思えなかった」と供述。しかし母親によれば、事件が発生する直前頃からブレアの態度に変化が見え始めたと言う。
「息子は何か問題を抱えていたのだと思います…睡眠時間が減って、いつも悩んでいるようでした。何度か理由を尋ねたんですが口ごもって教えてはくれませんでした。今でも、当時の息子に何があったのか分かりません」
日を追うごとに様子がおかしくなっていったブレアは、ここから謎の死へ突き進んでいく。
1996年7月5日土曜日
ブレアは銀行の預金を全て引き出し、貸し金庫に入れていた宝石、金、プラチナなどを回収。
日曜日
ブレアは車で国境を超えてアメリカへの入国を試みる。
しかし、未婚の30代の男性が車中に大金と貴金属を所持していたため、ドラッグディーラーの疑いをかけられ入国は拒否されてしまう。
月曜日
ブレアは職場に姿を現すと上司に辞職を願い出て、その場で退職金を小切手で受け取った。
その日の午後、ブレアはドイツのフランクフルト行き往復航空券を1600ドルで購入。
フライトは翌日の予定だったが、再びブレアはアメリカに向かおうとする。
突然、知人の家に現れたブレアはパニック状態で「命が狙われている」と訴え、国境を超えてアメリカへ連れて行ってほしいと頼み込んだ。
しかし友人は支離滅裂なブレアの頼みを断る。
火曜日
ブレアはドイツ行きの航空券を購入したにも関わらず、再びレンタカーを借りてアメリカへの国境へ向かった。
この時は国境を無事に通過し、そのままワシントン州シアトルへ到着。ワシントンDC行きの片道航空券を770ドルで購入。
ジョーンズ保安官によれば「この時、ワシントンDCとの往復チケットは400ドルほどで購入することが出来たんです。しかし、彼は片道切符を770ドルで購入している。なぜ彼は倍近い値段で片道切符を買ったのか?」と、ブレアの行動に疑問を呈している。
水曜日
早朝にワシントンDCへ到着したブレアは、約500マイル(約800km)ほど離れたノックスビルへ向かった。
そして、その日の午後5時30分頃、ノックスビルのガソリンスタンドに立ち寄っている。
ブレアは店員に「車のエンジンがかからない」と訴えたが、既にブレアが車を借りたレンタカー会社は終業していたので、彼は翌日まで近くのホテルへ宿泊することになった。
「彼は何か妄想に取り憑かれているようでした。そして、とてもナーバスで、誰かがやって来るのを待ち望んでいるように見えました」
ブレアがチェックインしたホテルの従業員ティカ・ハースフィールドは、彼の奇行を鮮明に記憶していた。
その証言を裏付けるように防犯カメラには、落ち着きなくホテルのロビーを行ったり来たりするブレアの様子が残っている。
午後7時37分にブレアはホテルのフロントドアから出ていくと、二度と戻っては来なかった…