2002年7月30日、オハイオ州イーストレイクに住んでいた76歳のジョセフ・ニュートン・チャンドラーが遺体で発見された。
死因は自殺。
小さなアパートの浴槽で、老人は拳銃を自分の頭に向けて引き金を引き、人生の幕を下ろした。
すでに死後1週間が経過していたために、指紋を採取することは出来ず、近しい人の連絡先なども一切発見されなかった。
それでも、一人暮らしだったジョセフの自殺を近親者に知らせようと警察が戸籍情報などを調べると、驚くべき事実が発覚した。
亡くなった人物は、戸籍上のジョセフ・ニュートン・チャンドラーとは全くの別人。さらに、この老人が有名な未解決事件の犯人ではないかとする説も浮上してきた。
他人と入れ替わった謎の老人と未解決のゾディアック事件
調査の結果、本物のジョセフ・ニュートン・チャンドラーは、1945年にテキサス州で交通事故に遭遇し、8歳で他界していたことが明らかになった。
自殺した老人は何らかの方法で、既に死亡していたジョセフ・ニュートン・チャンドラーの戸籍を入手して何食わぬ顔で生活していたのだ。
一体、この老人は何者なのか?
気になる点と言えば、小さい安アパートに住んでいた老人の銀行口座には8万ドルもの預金が残されていたこと。
「もしかすると、この老人は何らかの事件、例えば銀行強盗などに関与して、逃亡生活を送っていたのではないか?」
警察内部でも身元不明の老人に関する不穏な噂が流れていたが、手がかりとなるものが不自然なほど全く残されていなかったので捜査は難航。
しかし遺体からDNAを解析して膨大なデータベースと照らし合わせた結果、自殺から16年後の2018年に老人の本物の息子にたどり着いた。しかし…
アメリカ海軍の英雄は突如失踪…
ジョセフ・ニュートン・チャンドラーに成りすましていた謎の老人の本名はロバート・ニコルズ。
かつて、第二次世界大戦でアメリカ海軍に所属し、戦場で輝かしい功績を残す優秀な軍人だった。
戦争が終結した後、ロバートはゼネラルエレクトリック社で働きながら、妻と3人の子供と生活していた。
それは一見すると何の変哲もない、ごく普通の暮らしぶりに見えた。
しかし1964年、ロバートは「いつか理由がわかる時が来る」とだけ言い残し、家族の前から姿を消してしまう。
そこから10年以上、彼が何処で何をしていたのかは明らかになっていない。
が、1978年、ロバートは何らかの方法でジョセフ・ニュートン・チャンドラーの出生証明書を入手し、別人として新たな人生をスタートさせたことが明らかとなっている。
生前のジョセフを知る人は「頭は良いけど、風変わりで孤独な老人だった」と印象を語っている。
彼はスーツケースの中に何かを入れ、数日から数週間ほど、どこかへ出かけることが多かったそうだが、行き先を知る者は誰もいない…
こんな謎だらけの人生を送っていたロバート・ニコルズに関して、とても興味深い噂がある。
なんと彼、アメリカの犯罪史に残る「有名未解決事件の真犯人」ではないかと言われているのだ…
孤独な老人はゾディアックなのか?
確かに、他人の戸籍を不正に入手して成りすますのも重大な犯罪だが、自殺から17年が経った現在で、警察はロバート・ニコルズに関する捜査を打ち切っていない。
そこには、ある噂が囁かれている…
「ロバート・ニコルズはゾディアック事件の真犯人だったんじゃないか?」
「ゾディアック事件」とは、今から50年ほど前、1968年から1974年にかけて、アメリカのサンフランシスコ周辺で同一犯によって5人が殺害された事件。
犯人は「ゾディアック」と名乗り、警察や新聞社に犯行声明や暗号文を送りつけ、世間を震撼させた。
その後、犯行はプツっと途絶えてしまい、ゾディアックは逮捕れず事件は未解決のままとなっている。
ロバート・ニコルズとゾディアックの時系列を確認しよう。
1964年にロバート・ニコルズが家族の前から失踪…
1968〜1974年に殺人鬼ゾディアックが暗躍…
1978年からロバート・ニコルズはジョセフ・ニュートン・チャンドラーに成りすます…
ちょうどゾディアック事件と前後して、ロバート・ニコルズは家族の前から姿を消し、そして別人に成りすましているのは明らか。
ゾディアックの瓜二つ…
それだけではない。
この「ゾディアック=ロバート・ニコルズ説」が根強い一番の理由がコチラ…
左が、ゾディアックの目撃証言を元に作成された似顔絵。
右が、自殺したロバート・ニコルズ。
あまりにも似ていると思わはないか?
年齢に差があったとしても、輪郭からシワの特徴、メガネのフレームの形まで、共通する点が非常に多い。
さらに、ゾディアック事件で被害者が殺害された現場からは、アメリカ軍に所属した兵士に支給されるブーツと同じ型の足跡が発見されている。
ロバート・ニコルズは元アメリカ海軍所属だったので、同じ型のブーツを所持していた可能性は高い。
極めつけは、ロバート・ニコルズの捜査にあたっていた警察官が会見を開いた時のこと。
ゾディアックとの関連について尋ねられた警察は、次のようにコメントした。
「ロバート・ニコルズはゾディアック事件の容疑者から完全に除外されたわけではない」
生前のロバート・ニコルズには経歴もなく「風変わりな人物だが親切だった」と、知人の中には養護する声もあるが…
果たして、年老いた老人の自殺と未解決事件を結ぶ不気味な伏線は、この先回収されるのだろうか?