これは、ある妄想に取り憑かれた男が被害者となった謎の多い未解決事件。
1980年代…
ドイツ人のギュンター・ストールは、自分の中で次第に大きくなる妄想に苦しめられていた。
以前は食品会社の技術者として働いていたが、本人の意志と関係なく膨らんでいく妄想によって、仕事が手につかなくなり職を失った。
無職となり家に引きこもるようになったギュンターの妄想は悪化していき、妻に「彼ら」の存在を口にするようになる。
ギュンターは名前も素性もわからない「彼ら」「あいつら」に付きまとわれ、監視されていると訴えたが、妻には何のことだか、さっぱり分からなかった。
妄想に取り憑かれ次第に壊れていく夫を妻は心配していたが、状況は悪化しギュンターは謎の行動を繰り返した末に最悪の事態を招くことになる…
妄想にとりつかれた男が残した謎のメモ「YOG’TZE」
1984年10月25日の夜11時頃、ギュンターは「ついに手に入れた!!!」と叫ぶと「YOG’TZE」とメモに書き残した。
この「YOG’TZE」はドイツ語でもなければ、他の言語にも当てはまらず、今でも意味は分かっていない。
その後、ギュンターは自宅を飛び出すと車を運転して行きつけのパブへ向かう。カウンターでビールを飲み始めると、彼は突然フロアーに倒れ込んで顔を負傷した。
目撃者の証言によれば「彼は酒に酔った感じではなく、突然、意識を失ったように見えた」とのこと。
しばらくして目を覚ましたギュンターは、店を後にして車を走らせた。
日付が変わった10月26日の深夜1時頃、パブからかなり離れたハイガーゼールバッハの街に住んでいる、幼い頃から顔なじみの老婆の家を訪ねた。
「今夜、恐ろしい事件が起こるんだ」
ギュンターはドア越しに訴えかけるが、夜遅くに支離滅裂な言動を繰り返す男を老婆が警戒するのも無理はない。
「実家に帰って両親に話を聞いてもらいなさい」
そう促すと、ギュンターは大人しく従い老婆の家を後にした。
しかし彼は両親のいる実家には向かわず、この後、事態は急変する…
瀕死の男が残した最期の言葉
次にギュンターが目撃されたのは同日の午前3時頃。
老婆の家から100kmほど離れた高速道路上で、1台のフォルクスワーゲンが事故っているのをトラックドライバー2名が発見した。
すぐに1人は高速道路沿いに設置されている緊急連絡用の電話に向かい、もう1人は事故車の中を調べることにした。
この時、付近には白いジャケットを来た男が目撃されたが、すぐに姿を消している。
ドライバーが事故車の中を確認すると、助手席には裸の男性が瀕死の重傷を負っていた。
その男がギュンター・ストールだった。
「大丈夫か?何があったんだ?」
「一緒にいた4人の男は逃げてしまった」
「4人は友達か?」
「私の友達じゃない…」
通報によって救急車が駆けつけ、瀕死のギュンターを病院へ搬送。
しかし、病院へ辿り着く前にギュンターは息を引き取った。
その後、警察の捜査によって不可解な点が浮かび上がってくる…
妄想に殺された男
その後の調査で、ギュンターは車が高速道路で事故を起こす前に、重症を負っていたことが明らかになった。
警察の発表によると…
・ギュンターは10月下旬の寒い夜にも関わらず、どこかで服を脱ぎ(脱がされ?)裸の状態で車に轢かれた。
・何者かが重症を負ったギュンターを、フォルクスワーゲンの助手席に乗せて運転。
・発見現場となった高速道路で事故を起こし、謎の人物は、その場を立ち去った。
運転していたのは、ドライバーの目撃した「白いジャケットを着た男」なのだろうが、その後の捜査でも白いジャケットの男や、ギュンターが死の間際で証言した「友達ではない4人の男」は、発見には至らず。
この事件は、今でも未解決のまま多くの謎が残されている。
なぜギュンターは、裸のまま車に轢かれたのか?
誰が車を運転して運んだのか?
事故死か?他殺か?
ギュンターは自分の死を予見していたのか?
「彼ら」は妄想だったのか?本当に存在したのか?
ギュンターが書き残したメモ「YOG’TZE」の意味にも諸説ある。
①Oは数字の0、Gは6、Zは2、つまり「Y06T2E」で車のナンバープレートを意味している。
②「YO6TZE」はルーマニアのラジオ局の登録番号と一致する。
③YOGはヨーグルト、TZEはヨーグルトによく使われる香料を意味している。
この一件は、ドイツの犯罪史の中でも、もっとも謎に包まれた未解決事件だと言われているが、あの日の夜ギュンター・ストールは何を見たのか…?