怖い話No.36「悪い夢」
「パパ起きて…怖い夢を見たの」
眠い目をこすりながら枕元の時計を確認すると、時刻は午前3時23分。
暗い部屋の中にパジャマ姿の娘が立っている。
「とりあえずパパのベッドに入って、どんな夢を見たか聞かせてごらん」
「嫌よパパ…」
娘の声は震えていた。
何か胸騒ぎを感じて、眠気は一気に消え去る。
「どうして嫌なのかな?」
「だって、さっき見た夢の中で、私はベッドに入ってパパに夢の話をしていたの」
「夢の中で夢の話?」
「うん…そうしたら、夢の中のパパが急に大きな声を出したの…」
しばらくの間、頭がしびれるような感覚で思考が停止する。
何かをしなければ、考えなければいけないけれど…暗闇の中で泣きそうな顔をしている娘から、目を離すことが出来ない。
その時、私の背中の方で、何かが動く気配を感じた…
怖い話No.37「薬の時間」
「ライルさん、お薬の時間です」
「もう勘弁してください…薬は嫌なんです…お願いします」
どれだけ頼んだって、私の言うことなんか聞いてくれないのはわかってる。
靴を舐めて助かるなら、革靴がふやけるまで舐めたっていい。
でも、私はベッドから起き上がることすら出来ない。
「そんな深刻に考えないでください。薬を注射すればライルさんの気分も良くなりますから」
看護師は私の腕に、黄色い液体の入った注射の針を突き立て、静脈の中へ一気に流し込む。
耳鳴りがして眼球の奥が熱くなると、次は体中の内臓から脳みそまでが腐り落ちていくような、最悪の倦怠感が全身を這いずり回って、息をしているのも嫌になる。
「殺してくれ!!!」
実際には、陸へ放り投げられた魚のように口をパクパクさせるのが精一杯で、私の願いは機械のような眼差しで見下ろす看護師には届いていないだろう。
「ここから逃してくれるなら何でもする」と悪魔に誓った。
今にも壊れてしまいそうな私の尊厳をかけて強く念じた。
「本当に何でもするんだろうな…?」
鼓膜の底から声がする。
低く嗄れた嫌な声がする。
「お願いします、何でもするから助けてください。
何をしてもかまわない。もう、ここにはいたくないんです」
「本当に何でもするんだろうな…?」
「もちろんです」
重くて目を開けることもできなかったのが嘘のように、私の瞼はすっと開いた。
目の前に映ったのは、ついさっきまで寝ていたのと同じ部屋…
ただ、私はベッドに拘束された見覚えのある男の前に立っていた。
「ライルさん、お薬の時間です」