怖い話 No.39「腕時計」
彼は10歳の誕生日にプレゼントで腕時計をもらった。
それはプラスチック製のデジタル時計で、見た目はごく普通。
しかし、デジタル表示は膨大な時間をカウントダウンしている変わった時計だった。
「そこに表示されているのは、お前がこの世界で使える残り時間だ。賢く使えよ」
父親は息子に告げた。
少年は成長して青年になり、何でも全力で取り組んだ。
休みがあれば山に登り、海で泳いだ。
友人たちとの会話を楽しみ、恋人を愛した。
男は自分に残された時間を知っていたため、何も恐れるものはなかった。
そして、青年は全力で人生を駆け抜け、いつしか老人になった。
10歳の時にもらった腕時計に表示された時間は残りわずか。
自分の最後を見届けるためにやって来た、古いビジネスパートナーで、かけがえのない友人と握手。
息子を抱きしめ、妻の額にキスをした。
年老いた男は微笑んで目を閉じる。
その時、時計は一度だけアラームを鳴らしてデジタル表示は消えた。
しかし、男は死ななかった。
体に異常はなくピンピンしている…
この時、男は生きていることに喜びを感じたと思いますか?
いいえ、その時、はじめて男は死の恐怖に震えたのです…