怖い話No.18「3番目の願い」
暗い夜道。
年老いた男が一人で道端に座り込んでいた。
彼は、自分がどこへ向かっていたのか…自分がどこから来たのか…自分が誰なのかさえ思い出せず、その上、足の疲労は耐え難く途方にくれていた。
どれぐらい座っていたのかを考えるのも億劫な男が目線を上げると、いつの間にか目の前に老婆が立っていた。
彼女は大きく口を開けて笑い、こう言った。
「さあ、3番目の願いは何かしら?」
「…3番目の願い?」
老婆の言っている意味が、男にはさっぱり理解できなかった。
「もし…私が1番目と2番目の願いを持っていなかったら、どうするんだ?」
「覚えてないのも仕方がないけど、私は既に、あんたの願いを2つ叶えたんだよ。
ちなみに、あんたが2番目に願ったのは『1番目の願いを叶える前に戻してくれ』だったよ。
だから、あんたは何も覚えていないのさ」
老婆は、憐れな生き物を観察するような目で男を見下ろす。
「さあ、あんたに残された願いは、あと1つだけだよ」
「わ、わかった…こんなバカげた話を信じてるわけじゃないが、願いを言おう。
それなら、私が誰なのか教えてくれ」
男の願いを聞いた老婆は腹を抱えて笑い、一息つくと男の頭に手をかざした。
「それは、あんたの1番目の願いと同じじゃないか。まあいいよ、その願いを叶えてあげるよ」
そう言い残して老婆は音もなく姿を消した。
そして、全てを思い出して絶望する男の前に、二度と老婆が現れることはなかった。
怖い話No.19「母の声」
少女が自分の部屋でくつろいでいると、下の階のキッチンから母親の呼ぶ声が聞こえた。
少女は階段を降りてキッチンへ向かう。
すると、階段の下にある戸棚が開き、少女は中から出てきた手につかまれ口を塞がれて中に引きずり込まれた。
何事かと少女は慌てたが、戸棚の中にいたのは母親だった。
しかし、どうも様子がおかしい。
母親は、少女の耳元で囁いた。
「キッチンに行ってはダメ。さっき呼んだのは私じゃないの」