怖い話No.9 「息子が見たカミナリ」
都会のマンションを引き払って、田舎の一軒家へ引っ越すことにしました。
辺りはとても静かなうえに近所の人達は親切で、私と3歳の息子の新しい門出に申し分ないと思っていました。
引っ越し当日は、近くを嵐が通過して激しい雷雨に見舞われたのですが、前年の離婚のストレスや私の過去を洗い流してくれているように思え、個人的には清々しくさえありました。
息子も新居を気に入ってくれたようで、初めて体験する嵐や雷鳴を怖がるどころか大はしゃぎ。
その晩のうちに嵐は過ぎ去り、疲れた息子もベッドでグッスリと熟睡できたようです。
「窓からカミナリが見えたんだよ」
翌朝、機嫌よく起きてきた息子は、まだ昨晩のカミナリに興奮しているようでした。
怖がって泣き出すよりは、カミナリを楽しんでくれた方が私も手がかからないなと、その時は気にもしなかったんです。
ところが、数日後の朝にも息子は同じことを口にしたのでした。
「窓からカミナリが見えたんだよ」
「それは…きっと夢を見たんだよ。だって昨日は嵐じゃなかっただろ?」
「ええ…そうなのかな…」
そんなにカミナリを見たのが嬉しかったのか、間違いを指摘された息子は、とても落胆していました。
「そんな落ち込まなくても、すぐに別の嵐がやってきて、またカミナリが光るよ」
それからしばらく、嵐とは無縁の穏やかな日が続いたのですが、息子は週に少なくとも2回は「窓からカミナリが見えた」と報告するんです。
初体験の印象が強くて、息子はカミナリが光る夢を見るようになったのだと解釈していましましたが、今になって振り返れば、もっと息子の言葉を真剣に受け止めるべきでした。
過去を振り返っても解決しないのはわかっていますが、先日のショックが頭から離れません。
起床してからコーヒーを入れて地方新聞を読んでいる時に目にしたんです。
うちの近所に住む小児性愛者の男が逮捕された記事を…
逮捕された男は、幼い男の子をターゲットに選ぶと何日も家の外で張り込み、家族が寝静まると男の子の寝顔を写真で撮影する趣味があったそうです。
フラッシュを光らせて…
もちろん、この男に狙われた被害者の男の子の中には、考えるのも恐ろしいイタズラを受けた子もいたとか…
男が逮捕される1週間ほど前、パジャマ姿の息子と、このような会話をしました。
「どうしたんだ?」
「もう窓からカミナリは見えないんだよ」
「それは安心だ。カミナリはどうなったんだい?」
「カミナリはね…僕の部屋のクローゼットの中にいるんだよ」
これから私は警察署に行き、逮捕された男が撮影した写真を確認しなければなりません…