怖い話 No.24「最初の言葉」
私たち夫婦が最も楽しみにしていたのは「娘が最初に喋る言葉は何か?」という事です。
「ママ」か?
それとも「パパ」なのか?
妻は毎晩、娘に「ママの可愛い宝物~」とオリジナルソングを歌いながら寝かしつけているので、よほど、最初に自分のことを呼んで欲しかったのでしょう。
ですが、私は自分が勝つと確信していました。
と言うのも、娘が最初に家へ来た時、妻がどんなに機嫌をとっても娘は火が付いたように泣き喚いていたのです。
妻には悪いですが、娘がお父さん子なのは明らかでした。
しかし、何事も思い通りにはなりません。
ある日のことです。
「ママよ」「パパだよ」
「さあ、ママって言ってごらん」「パパは誰かな?」
娘を椅子に座らせ、私たち夫婦は最初の一言を引き出そうとしていました。
そして、私が娘の口を封じていた粘着テープを取った時のこと。
「どうか…お願いです…私をここから出してください…」
妻の顔から笑顔が消えました。
私は泣き叫び始めた娘の口を塞いで、照明も窓もない部屋へ放り込んで鍵をかけました。
妻の元へ戻ると彼女は泣き崩れていたので、私は抱きしめて言いました。
「大丈夫だよ…次の子は、きっと上手くいくよ」
怖い話 No.25「塀の穴」
職場の近くへ引っ越した男は、徒歩で通勤することにした。
通勤途中には、木の塀で囲われた精神病院があると不動産屋から聞かされていた。
ちょうど男が病院の前を通り過ぎようとした時、塀の向こう側で患者たちが声を揃えて、同じことを復唱していた。
「10、10、10、10、10…」
何か体操でもしてるのか?
気になるが、塀で囲われた病院の庭を覗くことは出来ない。
患者たちの復唱は毎日続いていた。
ある朝、男は病院の木の塀に小さな穴が開いているのを発見する。
罪悪感もあったが、好奇心に負けた男は庭の中を覗こうと穴に近づいた。
すると突然、塀の穴から先の尖った棒が突き出てきて、男の顔をかすめた。
「クソ!!!」
病院の庭で誰かが叫ぶ。
怖くなった男が、その場を立ち去ろうとすると、再び患者たちの声が聞こえてきた。
「11、11、11、11…」
怖い話 No.26「モリーとマロリー」
私と双子の妹マロリーは、他人なら見分けることが不可能なほど似ている。
外見上の唯一の大きな違いは、マロリーの腕には、子供の頃に日焼けしすぎて火傷してしまった時の痕が今でも残っていること。
私たち姉妹は、とても仲が良かったんだけど、マロリーがサムと付き合い始めて一緒にいる時間は減っていった。
2週間前、マロリーの外出中にサムがうちへやってきた。
「彼女は泊りがけでジェシカの家で勉強をしてるよ」と言う前に、サムは私にキスをした。
「モリーはいないの?」
私は長袖を着ていたので、火傷の痕で見分けることも出来ないから、サムは私と妹を勘違いしていた。
でも、サムはイケメンだったし、男の子とキスをするのは初めてだったけど嫌な気はしないし…
だから私は悪いことを考えてしまったの。
「今日は私一人なの」
マロリーに成りきってみたけど、この判断は間違いだったのかもしれない。
「よかったな、最近モリーがムカつくって言ってたから気が楽だろ?」
意味がわからなかった。
ムカつく?
混乱する私に、再びサムは激しくキスをした。
口を塞がれながら、私は気がついた。
マロリーは私が欲しいものを全て持っていたこと…
翌朝、マロリーは疲れた顔で帰宅した。
「勉強は大変だったみたいだね、日曜なんだからゆっくり休みなさい」
「そうね、天気もいいしビーチで横になってくるよ」
「じゃあ、私の新しい日焼け止め貸してあげるよ」
マロリーに日焼け止めのボトルと錠剤を2つ差し出した。
「頭痛薬も飲んでおいたら?」
「本当にありがとう、じゃあ1時間くらい行ってくるね」
マロリーに日焼け止めを塗ってあげて、錠剤を飲み込むのを確認して玄関から見送った。
その日は、とてもよく晴れていた。
強い日差しのビーチで、マロリーはぐっすりと眠っていた。
私はマロリーに塗った日焼け止めを拭き取り、日光避けのパラソルを引き抜いて帰宅した。
日が沈んだころ、自宅にサムがやってきた。
「今日もモリーはいないの?」
「知らないわ」
私はサムにキスをしながら、足元に置いておいたガソリンの入ったポリタンクを蹴り倒してジッポに火をつけた。