怖い話No.28「子守唄」
軽い昼寝から目を覚ました父親は、ベビーベットからの音声を確認する受信機を手に取り、仕事部屋へ向かった。
受信機からは、妻が我が子を寝かしつけようと歌う子守唄が聞こえてくる。
「眠れ~眠れ~」
彼には、母と子の微笑ましい光景が目に浮かんだ。
ちょうど玄関の前を横切る時、突然ドアが開いた。
そこには、買い物袋を抱えた妻が…
怖い話No.29「信号無視」
午前1時。
自宅の暗いリビングでガイ・ハルバーソンはソファーに腰掛けたまま、かれこれ1時間以上も全く動くこと無く、その夜、自分が起こしてしまった事故について、頭のなかでグルグルと考えを巡らせていた。
信号は青から赤に変わったが、仕事で疲れていたし、早く家出くつろぐためだけに、止まること無くアクセルを踏み込んだ。
その時、彼は右目の視界の隅で何かが向かってくるのを確かに見た。
ただ、あまりにも一瞬の出来事で、思考が追いつく前に激しい衝撃で車体が揺れ、右側から突っ込んできたバイクは、ボンネットの上を横切って、すぐに視界の左端へ消えていった。
彼はパニックになって車を急発進させ、無我夢中で闇夜を走り抜けて気付けば自宅の前。
“どうして逃げ出したんだ…?”
犯罪とは無縁の人生を送ってきた彼の頭の中では、これまで築いてきた「キャリア」「家族」「希望に満ちた未来」が崩れ、逮捕され刑務所へ放り込まれる自分の姿を想像し、涙がこぼれた。
“優秀な弁護士を雇う金はある…今すぐ出頭するべきじゃないか?”
その時、玄関を誰かがノックした。
“今夜は誰とも会う予定はない…もう見つかったのか…”
身体は震えていた。
しかし、誤魔化しても問題は悪化するだけに思えたので、彼は覚悟を決め、震える足で玄関へ向かって歩き出した。
彼の想像通り、ドアを開けると警官が立っていた。
「ハルバーソンさんですか?」
「はい」
「大変恐縮ですが、悪い知らせがあります」
全身から汗が吹き出し、握った拳に力が入る。
「先程、あなたの息子さんがバイクに乗っていたところ車にひき逃げされてしまい、残念ながら、その場で即死でした。お悔やみ申し上げます」